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2026.08.12

機能、増やしすぎていませんか?“全部入り”のECサイトが使いにくくなる理由

機能、増やしすぎていませんか?“全部入り”のECサイトが使いにくくなる理由

ECサイトを開くと、商品より先にクーポンが目に入り、少しスクロールすると会員登録を促され、商品詳細ではAIチャットが立ち上がり、カートに進めばポイント、関連商品、キャンペーンの案内が待っている。

一つひとつには、追加された理由があります。

レコメンドは回遊率を高めるため。会員ランクは継続利用を促すため。クーポンは購入の後押し。AIチャットは問い合わせ対応の効率化。外部サービスとのAPI連携も、運営を便利にするために導入されたはずです。

どれも、単体で見れば間違っていません。

ただ、それぞれの機能が同時に前へ出た結果、肝心の商品や購入導線が埋もれてしまうことがあります。

ECサイトには、「追加された理由は分かるけれど、今も残っている理由は誰も説明できない機能」もあります。
機能を増やすことと、ECサイトを使いやすくすることは、同じではありません。

今回は、“全部入り”になったECサイトで何が起きるのか。そして、本当に必要な機能をどう見極めるのかを、現場目線で整理します。

機能追加は、改善したことが伝わりやすい

ECサイトの改善には、見た目に表れにくい仕事も多くあります。

商品情報を整理し、導線を見直し、運用ルールを整え、部署ごとの認識をそろえる。こうした取り組みは重要ですが、社内では成果を説明しにくいものです。

一方、新しい機能の導入は分かりやすい。

「レコメンドを強化しました」「会員ランクを始めました」「AIチャットを導入しました」と報告でき、画面にも変化が出ます。
そのため、EC改善の議論では、「今あるものを整える」よりも「新しいものを足す」ほうが選ばれやすくなります。

ただ、機能の価値は、導入した事実では決まりません。
誰のどんな課題を解決し、どんな役割を果たしているかで決まります。

「競合が使っているから」「あったほうが便利そうだから」「いつか使うかもしれないから」といった理由だけで導入すると、数カ月後には管理画面の奥で静かに眠っているかもしれません。

問題は、機能が増えたことそのものではなく、役割が曖昧なまま残り続けることです。

機能が増えると、運営の仕事も増える

機能追加の話では、表側の便利さはよく議論されます。
一方で、その機能を誰が管理するのかは、後回しになりがちです。

たとえばクーポン機能を増やせば、対象商品、併用条件、有効期限、例外処理、問い合わせ対応まで決める必要があります。会員ランクを導入すれば、判定条件、特典内容、集計方法、対象外商品の扱いも管理しなければなりません。
API連携を増やせば、連携エラーや仕様変更への対応も発生します。

つまり、機能を一つ増やすことは、画面にボタンを一つ増やすことではありません。確認事項、例外処理、保守範囲、問い合わせ対応をまとめて増やすことです。

さらに、外部サービスや連携先が増えるほど、不具合が起きたときの切り分けも難しくなります。
EC側なのか、決済側なのか、在庫連携なのか、それとも外部ツールの仕様変更なのか。原因を突き止めるだけで時間を使うこともあります。

導入を決めた人は毎日その機能を触らず、運用担当者だけが複雑になった管理画面と向き合う。
現場では、この構図が起こりがちです。

「お客様にとって便利か」だけでなく、「運営側が使い続けられるか」まで含めて、機能の価値を考える必要があります。

各部門の正解が、画面の中で競合する

“全部入り”のECサイトが使いにくくなる理由は、単純に機能数が多いからではありません。
それぞれの機能が、同じ画面で前に出ようとするからです。

販促担当者はクーポンを目立たせたい。CRM担当者は会員登録を促したい。CS担当者はチャットを使ってほしい。マーケティング担当者はレコメンドを見てほしい。
全部、正しいです。
ただ、それらがトップページや商品詳細ページで一斉に主張を始めると、主役である商品が後ろへ下がります。

お客様がECサイトを訪れる目的は、すべての機能を体験することではありません。商品を探し、比較し、納得し、購入することです。
ところが、会員登録キャンペーン、期間限定クーポン、AIチャット、ポイントアップ、メルマガ登録などが同時に表示されると、何を優先すればいいのか分かりにくくなります。

問題は、選択肢の数そのものではありません。
優先順位が見えないことです。
必要のない判断を求められたり、複数の案内が同時に注意を奪い合ったりすると、お客様の判断負荷は増えます。

機能を追加するときは、「何ができるようになるか」だけでなく、「何から注意を奪うのか」まで考えなければなりません。

決済画面では、「増やす」より「終わらせる」

機能過多の影響が出やすいのが、カートから決済完了までの導線です。

EC事業者としては、ポイントも案内したい。クーポンも使ってほしい。会員登録も促したい。関連商品も紹介したい。
ただ、お客様が決済画面まで進んでいるなら、最優先すべきことは注文を完了してもらうことです。
EMV 3Dセキュアは、不正利用を防ぐために適切に対応すべき重要な仕組みです。
問題は3Dセキュアそのものではなく、認証が必要になる可能性のある決済導線に、複雑なクーポン条件やポイント設定、会員登録、関連商品の訴求まで集中させてしまうことです。

「なぜ割引が適用されないのか」「ポイントを使うと何が変わるのか」「エラーが出たが、どこを直せばいいのか」。
こうした迷いが増えるほど、決済は止まりやすくなります。
安全性を確保することは前提です。そのうえで、その他の判断や入力を減らし、エラー時の案内を分かりやすくする。

決済画面では、「何を追加するか」より「どう迷わせずに終わらせるか」を優先するべきです。

棚卸しでは、「残す・消す」の二択にしない

新しい機能を検討する前に、まず既存機能を一覧にしてみてください。

そのうえで、アクセス解析、イベント計測、ヒートマップ、問い合わせ内容、運営担当者へのヒアリングなどを使い、役割と効果を確認します。
見るべきなのは、単純な利用率だけではありません。
誰が使っているのか。何の課題を解決しているのか。売上や購入率にどう影響しているのか。問い合わせや作業時間を減らしているのか。維持費や保守負荷に見合っているのか。
利用者が少なくても、問い合わせ削減や不正利用防止に役立っている機能はあります。一方で、よく表示されていても、ほとんど行動につながっていない機能もあります。

棚卸しで考えたいのは、「残すか、消すか」だけではありません。
表示位置を変える。案内文を見直す。対象者を絞る。特定の画面だけで表示する。他の機能と統合する。運用方法を変える。廃止する。
機能そのものをなくさなくても、見せ方や対象を絞ることで、サイトはかなりシンプルになります。
会員向けの機能なら、未ログインのお客様には細かく見せない。チャットなら、商品詳細では表示し、決済画面では出さない。
必要な機能を、必要な人に、必要な場面だけ見せる。

それだけでも、“全部入り”の圧はかなり下がります。

導入時に決めるべきなのは、成功条件だけではない

新しい機能を導入するとき、「何を改善したいか」は比較的話しやすいものです。
購入率を上げたい。客単価を伸ばしたい。問い合わせを減らしたい。会員化を進めたい。
ただ、現場で判断が難しくなるのは、導入したあとです。

期待した数字が少ししか動かなかった。売上への影響は見えないが、問い合わせは減った。お客様には使われているが、運用負荷が大きい。逆に、利用率は低いが、一部の重要なお客様には欠かせない。
このような状態になると、「成功か失敗か」を単純には決められません。
だからこそ、導入前に決めておきたいのは、成功条件だけではありません。

どの数字を見るのか。どの程度の運用負荷まで許容するのか。誰が評価するのか。期待した成果が出なかった場合に、表示方法を変えるのか、対象者を絞るのか、それとも廃止するのか。
ここまで合意しておく必要があります。

評価期間も、一律には決められません。日用品ECと高額商材のECでは、判断に必要な期間が違います。BtoB ECや季節商材、ロイヤルティプログラムでは、短期間の数字だけで結論を出せないこともあります。

大切なのは、「3カ月後に見直す」と期限だけを決めることではなく、何をもって見直すのかまで設計することです。
この設計がないと、機能は残り続けます。

導入した本人が「やめましょう」と言うのは簡単ではありませんし、他の担当者も、明確な基準がなければ止めにくい。結果として、誰も強く必要としていない機能が、なんとなく維持されます。

試した結果、目的に合わなかった。
それは失敗ではありません。
むしろ、合わないと分かっている機能を維持し続けるほうが、コストも改善機会も失います。

ECサイトの完成度は、機能の数では決まらない

ECサイトの価値は、できることの多さでは決まりません。
お客様が迷わず商品を探せる。必要な情報を確認できる。不安なく購入できる。そして、運営側が無理なく更新を続けられる。
この状態を支える機能なら、積極的に導入する価値があります。
一方で、目的が曖昧な機能や、他の機能と役割が重複しているものは、サイト全体の分かりやすさを損ないます。

機能を減らすことは、サービスを後退させることではありません。
お客様に見せるものを選び、運営側が管理できる範囲に整え、ECサイト全体の目的を明確にすることです。
次の機能を追加する前に、その役割を説明できるか。
誰の課題を解決し、どの数字を変え、誰が運用するのか。
そこが曖昧なら、必要なのは追加ではなく整理かもしれません。

“全部入り”ではなく、“必要なものが、必要な場所にある”。

ECサイトの完成度は、機能の数ではなく、迷いの少なさで決まります。

※関連リンク:「GMOクラウドEC」公式サイト

この記事の著者

浦川 航平

浦川 航平 URAKAWA Kohei

株式会社 もずくとおはぎ 代表取締役 CEO

長崎県佐世保市出身。 経営者と芸術家。ふたつの顔を持つ男。

家具・プロダクトデザイナーから通販会社のダイレクトマーケッターを経て2012年にウェブ業界へ足を踏み入れ、2023年3月に独立。経営者の道へ。

「右脳」と「左脳」を自由に行き来する独自のスタイルで、戦略的なプロデュースと緻密なマネジメント、そして人の懐にスッと入る柔軟な人柄を武器に、数々のクライアントの本質的課題に切り込み、解決へと導いてきた。

2025年6月、「GMOクラウドEC」エバンジェリストに就任。
GMOメイクショップ株式会社との連携を通じて、EC領域のさらなる可能性を追求している。

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