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2026.08.18

変えずに、新しくする。

変えずに、新しくする。

創業のとき、知り合いに頼んで作ってもらったロゴ。
あるいは、自分でソフトをさわって、なんとか形にしたロゴ。
それを、何年も大事に使い続けている会社も、あると思います。

看板にも、名刺にも、サイトにも入っています。
正直、お世辞にも洗練されているとは言えません。
下手かもしれません。整っていないかもしれません。
でも、不思議と愛着があります。
自分たちが歩いてきた時間が、その形には詰まっているからです。

ある日、新しくできた会社のロゴと並んで、「なんか、うちのだけ古いな」。
そう感じたこと、ありませんか。
じゃあ、いっそ作り直すか。
それだけで、刷新する前に一度立ち止まってください。

変えない、という選択肢

新しいものを作りたい。それは、作り手としての正直な本能でもあります。
まっさらから作り直すのは、実はいちばんラクな道だったりもします。
ゼロから組み立てれば、理屈はきれいに通ります。仕上がりも整います。

でも、それで本当にいいのか、と考えてしまいます。
そのロゴには、使ってきた時間が宿っているからです。

取引先が覚えてくれた形。
お客さんが見慣れた佇まい。
それは、あとからお金で買い直せないブランドアイデンティティです。

作り直せば、その積み重ねは一度リセットされます。
新しくなる代わりに、これまでが消えてしまいます。
だから、手をつける前に「変えない」という選択肢を、まず机の上に置きます。

作り直すことと、整えること。 言葉は似ていますが、やっていることはまるで違います。
作り直すのは、ゼロからの再設計。
整えるのは、今ある形に、後から筋を通していく作業です。

「なんか違う」には、理由がある

「古い」「なんか違う」。そう感じるロゴには、たいてい理由があります。
専門家でない人がつくった造形には、ルールがないことが多いんです。
古いロゴに多いのは確かですが、これは年数の問題ではありません。

線の太さが、場所によってバラバラだったり。
余白が、なんとなくの感覚で決まっていたり。
文字と図形の字間が、詰まりすぎていたり。
角のRが、一つひとつ違っていたり。

一つずつは、ほんの小さなズレ。
でも、それが積み重なると「なんか違う」という空気になります。

今のロゴは、どこかしら系統だった造形でできています。
見慣れた目は、その整い方を、無意識のうちに基準にしています。
だから、ルールのない造形は、相対的に古びて見えてしまうのです。

逆に言えば、形そのものを変えなくても、ここを整えるだけで印象は大きく変わる、ということでもあります。

造形に、根拠を与える

整備でやることは、つくり直しとは違います。 シンボルマークの輪郭を、ほんの少し動かすだけです。
具体的には、こういうことをします。

  • 線の太さを、一本の基準で揃える。
  • 余白を、感覚ではなく数値で設計する。
  • 全体のプロポーションを、黄金比のような物差しで見直す。
  • 角のRを、ひとつのルールに統一する。
  • ロゴタイプがあるなら、書体の選び直しや字間まで含めて、文字まわりも整える。
  • 小さく使っても潰れないか、視認性を確かめる。
  • 人の目の錯覚を補正する光学調整を、最後にそっと入れる。

やっているのは、この程度のこと。
コンセプトは、一文字も変えていません。
「らしさ」も、ちゃんと残しています。

それでも、造形に根拠が宿ると、形は見違えます。

ちょっと作ってみました。(強引ですがw)

アニマルの「A」をモチーフにした、犬の顔のロゴ。左が整備前、右が整備後です。意味は変えず、目の位置・マズルの造形・左右のバランスを整えただけ。それでも、右のほうがずっと“今”の表情になっています。

今っぽさというのは、奇抜さではなく、この「整っている」という状態のことなんだと思います。

そして、造形が整うと、副産物もついてきます。
名刺の小さなサイズでも、ビルの看板でも、形が破綻しません。
白黒でも、反転させても、ちゃんと成立します。
根拠のある造形は、使う環境が変わっても揺らぎません。

壊さずに、住み継ぐ

古い家のリノベーションに、少し似ているかもしれません。

柱や梁の佇まいは、そのまま活かします。
骨格は、そこに住んだ人の記憶そのものだから、壊しません。
代わりに、配管や断熱を、今の基準で入れ直します。
見た目の印象は、ほとんど変わりません。
それでも、これから先もずっと住める家になります。

ロゴも、同じです。
愛着のある「らしさ」は残したまま、造形の中身だけを、今の基準で組み直していきます。

変えないために、手を入れる

今のロゴに、どこか引っかかりがあるとしても。
それは、恥ずかしいことではありません。
むしろ、これまで使ってきた形には、それだけの価値があります。
作り直すことだけが、新しくする方法ではありません。
愛着のある形は、捨てなくていいんです。

そこに、根拠とルールを、そっと足していきます。
それは、過去を否定する作業ではありません。
これまで積み重ねてきた時間に、これから先も使い続けられる理由を、あとから与える作業です。

変えないために、手を入れる。
そうやって整えられたロゴは、見慣れた形のまま、ちゃんと新しい未来へ進んでいけます。

ロゴのリデザインを、そう捉えています。

この記事の著者

原 暢平

原 暢平 HARA Yohei

株式会社 もずくとおはぎ CCO

落ち着いた物腰と柔らかな佇まいの中に、青い炎のような熱を秘めている。

妥協を一切許さない彼のスタンスは、細部にまで理由を宿したデザインを紡ぎ出すため。
その設計へ一貫して注がれる美意識は、まさに職人技。

どこまでも貪欲に高みを目指し、進化していく自分を楽しみながらクリエイティブと向き合っている。

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