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2026.10.06

見やすくした、つもりだった。

見やすくした、つもりだった。

あるアプリのデザインをしたときのことです。

高齢の方も多く利用するため、文字を大きくしてほしい。
そんな要望を受けて、一般的なアプリよりも一回り、二回り大きな文字で設計しました。

これなら、読みやすくなるはずでした。

けれど、公開してみると、想定していなかったことが起きます。
もともと、端末側の文字サイズを大きくしている方が多くいたのです。

実際、父もそうでした。
スマホの操作もままならないので、ショップで文字を大きく設定してもらっていました。
考えてみれば、同じように、自分が見やすいように調整している方は少なくありません。

そこで、何が起きたのか。

一行で収まるはずだった文章が、二行、三行に折り返される。
文字が画面を押し広げ、情報のまとまりも崩れていく。

配慮したつもりが、別の読みにくさをつくっていました。

(左)少し大きめの文字設定/(右)端末の設定で文字を大きくしている設定

初期設定の画面を、基準にしている。

見やすさへの配慮を考えるとき、基準にしているのは、たいてい初期設定の画面です。

標準の文字サイズで表示されている状態。
そこから、文字を大きくしようと、手を加えていきます。

けれど、実際に使われている画面が、初期設定のままとは限りません。
文字サイズをすでに上げている人。自分が見やすいように、表示の設定を変えている人。

こちらが基準だと思っていた画面は、いくつもある表示の状態の、ひとつにすぎなかったのです。

見やすさには、限界がある。

文字を大きくすること自体が、間違っていたわけではありません。
文字が大きくなることで、読みやすくなる人はいます。

けれど、大きくすればするほど、すべての人にとって見やすくなるわけではない。
文章の折り返しが増え、情報のまとまりが崩れれば、今度は別の読みにくさが生まれます。

一つの配慮が、どこまでも有効に働くとは限りません。
一つの状態だけを見て、見やすさを判断しない。
文字サイズが変わったとき、どこかで読みやすさが崩れることを、あらかじめ織り込んでおく。

見やすさが崩れる、その境目を知っておくことも、設計の一部なのだと思います。

変化することを、前提にする。

その境目は、一つの状態だけを見ていてもわかりません。

文字サイズを変えてみる。画面の幅を変えてみる。明るい画面と暗い画面を切り替えてみる。いくつかの状態で確かめながら、どこから見にくさや使いにくさが生まれるのかを見ていきます。

文字が大きくなれば、一行だった文章が二行、三行になる。画面の幅が狭くなれば、横に並んでいたものが縦に並び、情報を読む順番も変わります。

色も同じです。明るい画面では見えていた文字や線が、暗い画面では背景に埋もれることがある。色だけで情報を分けていれば、その違いが伝わらなくなることもあります。

確認するのは、画面が崩れていないかだけではありません。情報のまとまりは保たれているか。読む順番は伝わるか。押すべきボタンを見失わないか。色や表示方法が変わっても、その画面で何をすればよいのかがわかるか。

すべての状態を試すことはできません。だから、よく使われる画面や、操作に欠かせない箇所から確かめていく。

文字、レイアウト、色。それぞれが変わったとき、どこから使いにくくなるのか。その境目を見ながら、対応する範囲を決めていきます。

その配慮は、どう届くのか。

今回、「高齢の方には、大きな文字のほうが読みやすい」と考えました。
それ自体は、間違いではなかったと思います。

ただ、こちらが配慮したつもりでも、それが実際の使われ方のなかで、同じように機能するとは限りません。
良かれと思って加えたものが、使う人の設定と重なり、かえって使いにくさを生むこともある。

すべての使い方や表示設定に、完璧に対応するのは難しい。
だから、それを使う人がどんな人で、どんな設定で見ているのかを知り、どこまで対応するのかを決めておく。

配慮したつもりで、終わらせない。

その配慮が、実際の使われ方のなかでどう働くのか。
どこから別の使いにくさへ変わるのか。
そこまで確かめることが、見やすさを設計するということなのかもしれません。

この記事の著者

原 暢平

原 暢平 HARA Yohei

株式会社 もずくとおはぎ CCO

落ち着いた物腰と柔らかな佇まいの中に、青い炎のような熱を秘めている。

妥協を一切許さない彼のスタンスは、細部にまで理由を宿したデザインを紡ぎ出すため。
その設計へ一貫して注がれる美意識は、まさに職人技。

どこまでも貪欲に高みを目指し、進化していく自分を楽しみながらクリエイティブと向き合っている。

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