見やすくした、つもりだった。
あるアプリのデザインをしたときのことです。
高齢の方も多く利用するため、文字を大きくしてほしい。
そんな要望を受けて、一般的なアプリよりも一回り、二回り大きな文字で設計しました。
これなら、読みやすくなるはずでした。
けれど、公開してみると、想定していなかったことが起きます。
もともと、端末側の文字サイズを大きくしている方が多くいたのです。
実際、父もそうでした。
スマホの操作もままならないので、ショップで文字を大きく設定してもらっていました。
考えてみれば、同じように、自分が見やすいように調整している方は少なくありません。
そこで、何が起きたのか。
一行で収まるはずだった文章が、二行、三行に折り返される。
文字が画面を押し広げ、情報のまとまりも崩れていく。
配慮したつもりが、別の読みにくさをつくっていました。

初期設定の画面を、基準にしている。
見やすさへの配慮を考えるとき、基準にしているのは、たいてい初期設定の画面です。
標準の文字サイズで表示されている状態。
そこから、文字を大きくしようと、手を加えていきます。
けれど、実際に使われている画面が、初期設定のままとは限りません。
文字サイズをすでに上げている人。自分が見やすいように、表示の設定を変えている人。
こちらが基準だと思っていた画面は、いくつもある表示の状態の、ひとつにすぎなかったのです。
見やすさには、限界がある。
文字を大きくすること自体が、間違っていたわけではありません。
文字が大きくなることで、読みやすくなる人はいます。
けれど、大きくすればするほど、すべての人にとって見やすくなるわけではない。
文章の折り返しが増え、情報のまとまりが崩れれば、今度は別の読みにくさが生まれます。
一つの配慮が、どこまでも有効に働くとは限りません。
一つの状態だけを見て、見やすさを判断しない。
文字サイズが変わったとき、どこかで読みやすさが崩れることを、あらかじめ織り込んでおく。
見やすさが崩れる、その境目を知っておくことも、設計の一部なのだと思います。
変化することを、前提にする。
その境目は、一つの状態だけを見ていてもわかりません。
文字サイズを変えてみる。画面の幅を変えてみる。明るい画面と暗い画面を切り替えてみる。いくつかの状態で確かめながら、どこから見にくさや使いにくさが生まれるのかを見ていきます。
文字が大きくなれば、一行だった文章が二行、三行になる。画面の幅が狭くなれば、横に並んでいたものが縦に並び、情報を読む順番も変わります。
色も同じです。明るい画面では見えていた文字や線が、暗い画面では背景に埋もれることがある。色だけで情報を分けていれば、その違いが伝わらなくなることもあります。
確認するのは、画面が崩れていないかだけではありません。情報のまとまりは保たれているか。読む順番は伝わるか。押すべきボタンを見失わないか。色や表示方法が変わっても、その画面で何をすればよいのかがわかるか。
すべての状態を試すことはできません。だから、よく使われる画面や、操作に欠かせない箇所から確かめていく。
文字、レイアウト、色。それぞれが変わったとき、どこから使いにくくなるのか。その境目を見ながら、対応する範囲を決めていきます。
その配慮は、どう届くのか。
今回、「高齢の方には、大きな文字のほうが読みやすい」と考えました。
それ自体は、間違いではなかったと思います。
ただ、こちらが配慮したつもりでも、それが実際の使われ方のなかで、同じように機能するとは限りません。
良かれと思って加えたものが、使う人の設定と重なり、かえって使いにくさを生むこともある。
すべての使い方や表示設定に、完璧に対応するのは難しい。
だから、それを使う人がどんな人で、どんな設定で見ているのかを知り、どこまで対応するのかを決めておく。
配慮したつもりで、終わらせない。
その配慮が、実際の使われ方のなかでどう働くのか。
どこから別の使いにくさへ変わるのか。
そこまで確かめることが、見やすさを設計するということなのかもしれません。



